望んでいた二人での生活。会社員で忙しそうに跳び回る夫、兎。なかなか会えないことに寂しさを感じるがそれでも幸せだった…
ある事実に気付くまでは
「あら?」
夫のスーツの上着に入っていた一枚の手紙。既に開封されているそれは、奇妙な雰囲気を醸し出していた。
「あの人に、手紙…?」
あの、無愛想で人付き合いの少ない人に?白に金の装飾がなされている手紙に恐る恐る手が伸びる。背徳的なその行為に、煩いほどに心臓がざわめく。
「…別に、いいわよね」
誰に聞くでもなく呟き、そっと親指と人差し指で中の薄い紙を引き出す。
「な、にこれ…」
引き出した紙には、たった一言が小さな文字で書いてあるだけだった。
『あなた意外いらない』
生まれてしまった疑惑
それを裏付けるかの様に日に日に帰りが遅くなる夫
刻まれていく二人の溝
「…なんなのよ」
言い出せない疑問
「お前は知らなくていい」
何も語らない男
募る不信感
「もう、いや…」
「こんにちは、アリス」
隣に越してきたある夫婦
優しげな隣人の夫
見たことがないその妻
何も聞こえてこない隣
不信感を募らせるアリス
しかし、彼女は少しずつ隣人の夫に惹かれていく
「アリス、あなたはなんて可愛らしい人なんだ、さらってしまいたいね」
優しい、甘い声が誘う
「…でも、夫が…」
「…彼は、もう既にあなたの夫ではないかもしれないとしても?」
耳元で甘い毒が囁かれる
「…どういうこと?」
「さぁ、」
震える唇
理解を拒絶する脳
「…知りたいなら、」
見に行けばいい
彼女は頷く
彼の口元には
静かに笑みが浮かんでいた
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